獣達に関係する言葉について、猟師の立場から感じたことです。
< いのしし >
『 猪 突 猛 進 』
「一つの目標に向かって猛烈な勢いで突き進むこと」を指す言葉ですね。
山の中で追われているときは獣道に沿って一直線に走ってきます。
それが山の中で遠くに逃げるのには最適なルートだからです。
逃げているんだからよそ見や寄り道をしている暇がないのは当然です。
猪突猛進は猪が逃げている際の状態なのです。
猪が逃げる距離は長く、1km走るのは珍しくありません。
獣道は草木の間の同じ場所をいろんな獣たちが歩くことによって踏み固められてできた道です。
獣が遠くに逃げる際は獣道を通ります。
狩猟をする際は獲物が使用する獣道の把握が重大となります。
「 猪は真っ直ぐしか進まない。
曲がらない、止まらない。 」
なんて猪のイメージが定着していますが、間違いです。
猪突猛進の言葉のイメージが強すぎるんですね。
急ブレーキで止まりますし、方向転換も素早いです。
障害物が無い広い道路や広場では縦横無尽に走ります。
猪は臆病な生き物なので、よく止まります。(周囲の様子をうかがう)
猪に限らず獣達は逃げます。
人間を見れば逃げるのが通常の反応です。
でも、追い込まれた場合や幼獣を連れている場合は獣たちは戦うことを選択します。
猪の武器は口元にあるキバです。
突進してきてキバでえぐるように切り裂きます。
キバは刃物の様に常に研がれているので服が簡単に裂けたり刺さったりします。
猪と対峙した方からみれは一直線に向かってくる感じになります。
闘牛士のように直前に避けれればいいですが、まず無理です。
距離がある状態で直線上から外れるように横に移動しても追跡しながら曲がって突進してきます。
もし、猪と対峙した際に「真っ直ぐしか進まない」と思い込んでいるとやられるのでご注意を!
< たぬき >
「タヌキ寝入り」
死んだふりを指す言葉ですね。
これは本当の事です。
鉄砲の発砲音でびっくりして気絶してしまい、弾が当たったと錯覚した猟師が近づいた頃に気絶から覚めたタヌキがむくっと起きて逃げるという事から出来た言葉です。
” タヌキに化かされる ”というのもここから来ています。
実際にタヌキを見ていると感心します。
くくり罠に掛かったタヌキを外す際に撲打すると、タヌキは眼だけ動かして体はだらけた状態となります。
自分が左右に動くと目だけは合わせて動きます。
そして完全に逃げれる状態になると立ちあがって一目散に逃げていきます。
ちなみに、” タヌキ寝入り ”を英語で言うと、『 Fox Sleep(キツネ寝入り) 』となります。