<皆さんに知って頂きたい狩猟の現状>
1:野生鳥獣は何処にいるの? 数は増えているの?
野生鳥獣がいる場所は人家からかなり離れた山の中に入った場所だと思われがちですが、人家と隣接した山や休耕地、近所の川などに生息しています。
自分も実家からほんの数キロの範囲で狩猟をしています。
それは”人と獣達の距離”が昔に比べて無くなっているからです。
原因は幾つかあります。
例えば里山の消失・減少です。
「となりのトトロ」で見る山や林(昭和30年代)は人が山や林の中に入って手入れされている状態です。
木材の切り出しや炭の生産等で仕事として常に人が山の中に入っていました。
水がわき出る沢には田んぼやワサビ棚などが作られていました。
そうした人の手によって『田舎の風景』というのは作られ、守られてきていました。
それが今では炭の生産も無く木材の需要も減り山の中に人が入ることが無くなっています。
また山間に作られていた田畑も高齢化や後継ぎの問題で放置され荒れ放題となっています。
山間部の住居も住む人が無く朽ち果てています。
そのような場所は藪地となり獣達にとって住みやすい環境と変わるのです。
里山がクッション材として人と獣の境界線を作っていたのが無くなっているのです。
また、住宅地の開発で山の中に家を作れば当然獣と隣り合わせになります。
住みかを奪われた獣たちは隣接地の山林に移りますが、そこでは過密状態となるのです。
温暖化の影響もあります。
雪山で足が埋もれてしまう猪にとって雪の減少は生息範囲の拡大に繋がっています。
猪は冬眠をしないので冬でも歩き回るのです。
最近は東北方面での猪の生息範囲が拡大しています。
生息範囲が広がれば 野生獣の数も増えています。
けど、数よりもその生息地域が我々の身近となっている事の方が問題となるのです。
鴨等の鳥類はまた異なる話になりますが、ここでは省略させて頂きます。
2:ハンターってどういう現状なの?
昔に比べて狩猟をする人は減っています。
獣達にとっての天敵はオオカミだったのですが、それも明治時代に絶滅してから天敵と言えるのは人間(ハンター)だけになっています。
(ただし、二ホンオオカミについては各自調べてみてください。
オオカミの絶滅が今の獣増加の直接的な原因ではないと考えています。)
そのハンターの人口が年々減少しています。
銃規制の煩雑さ、住宅地や工場地の山林開発による狩猟場所の減少等による既存ハンターの減少が加速しているのに対し、若い人たちの新規加入も減少しているためバランスがとれません。
それにより猟友会が高齢化となって存続にも影響が出ています。
私は地元の猟友会のなかでは一番下ですが、私の父が下から数えても5番目ぐらいなのです。
あと5~10年もすれば全国各地で猟友会が消滅していくでしょう。
そうなれば、狩猟技術はどんどん失われてしまうのです。
また、山での狩猟対象獣も猪や鹿がメインとなり、タヌキやイタチ等を獲る人は激減しています。
自分の周りには見当たりません。
狩猟の先には「食糧や毛皮の確保」というのがあります。
美味しい猪や鹿に比べ、現在では毛皮の利用価値が無くなったタヌキ等を好んで狩猟する人はいません。
やるだけ損となるからです。
有害駆除として市役所からの依頼が無い限りは誰もやらないのです。
有害駆除場合は市から幾ばくかのお金を貰えますが、経費と比べると損の方がはるかに多いです。
特に猪や鹿以外の有害駆除(猿・タヌキ・ハクビシン等)は身銭をきったボランティアとなります。
3:獣害ってどんなの?
獣は増える。ハンターは減る。
山に獣があふれれば餌や生息地が不足し住宅地や田畑に出てくるのは当然です。
そして獣達により農作物が荒らされたり、猿や猪による噛み付かれたり引っ掻かれる獣害被害が発生して、その数は年々増加しています。
野生鳥獣は寄生虫や病原体を保有している場合があります。
もし見かけた場合は手出ししない方が良いです。
また農作物の被害も農家にとっては死活問題であります。
獣相手ですから損害賠償を請求できるわけでもなく噛みつかれた方や田畑が荒らされた農家の方は泣き寝入りです。
高原とかで問題となっているのが、鹿による立ち枯れです。
鹿は草や木々の皮を食べるのですが、皮を食べられた木はそのまま立った状態で枯れます。
鹿の数があまりに多いため山の再生が追い付かず、立ち枯れの山では大雨の際に土砂崩れが発生することもあります。
森が残っていたとしても鹿が食べない樹木や草花だけとなっている地域もあります。
境界線を作るのに電気柵を畑の周りに設置するといった獣害対策がありますが、これらにかける費用は補助金があっても高額の為、専業農家でもないかぎり厳しいです。
対策自体は野生獣との知恵比べとなりますが、完璧に有効な手だてというのは見つかっていません。
いたちごっこの状態なのです。
近年では地域ごとに獣害対策をするようになり捕獲した猪や鹿などを利用(現金化)できるように行政やNPO法人が動いていますが、全国的にみればごく一部です
自分の地域ではまだ動いてはいません。
4:ジビエのお店を出した理由は?
主な理由は2つです。
1つめは流通(現金化する)の確保をするためです。
今まで猟師の中だけで肉の消費は行われていました。
それが昔と比べて捕獲量が増え、余らして捨てていたのです。
となりの地区では処理(肉にする)が追い付かず、穴を掘っそのまま猪を捨てているのです。
これは勿体ない。せっかく美味しいのに!
ということで何とか利用出来ないかと思い動いた次第です。
余っているのなら安くできるのでは?と思われがちですが、そういう訳にも行きません。
野生鳥獣の為、畜産と牛や豚、またイノブタとは勝手が違います。
当然ですが、捕獲するには膨大な時間と経費がかかります。
狩猟には主に2種類の方法がありますが、1つは猟友会で行う”巻き狩り”という犬を使った昔からの捕獲方法と、もう1つは檻やくくり罠を使用する罠猟です。
巻き狩りでは毎日山を見て獣の動きを把握し、狩猟するにに山の中を車で走りまわります。
しかも毎回捕獲できるわけではありません。
趣味・道楽で行うのならそのような経費は何とも思いませんが、肉を購入となると購入額には経費を考慮しなければなりません。
また、罠でも檻の購入やメンテナンス、くくり罠の作成代や餌代が掛かります。
捕獲後も肉を一定の品質に保つために処理場が必要となりますし、年中営業するためには冷凍保管の場所も必要なのです。
肉を購入することでハンターの費用が軽減出来ます。
より多くの罠を購入・作成することが出来たり、狩猟に費用をかけることができます。
結果として獣害対策にもなるわけです。
猟友会の維持にもつながるわけです。
自分は狩猟は父がやっていた関係で幼少の頃よりなじみのある世界でした。
そして今は自分も狩猟を行っています。
狩猟は日本の1つの文化であり、風俗だと考えています。
今日明日で結果が出るわけではありませんし、流通の最終地とするお店に掛ける費用も限られています。
でもこういった自分にできることを少しずつ進めていきたいと考えております。
もう1つの理由はジビエ料理のイメージを変えたいということです。
一般の方が野生鳥獣を食べる機会があるとすれば、山間部の旅館で出てくる猪鍋や都心部のフレンチレストランで出てくる鳩や鹿の料理が殆どだと思います。
フランスでは昔からジビエ料理をメインにするほど出され、臭みの強い肉をいかく美味しくいただくか調理方法や味付けに研究がされているので、レストランで食べられた方は美味しく食べていると思います。
でも、旅館などで食べた事がある方では”臭い”や”硬い”と思われている方が8割近くいると思います。
年配の方になればなるほどそのイメージは強くなるでしょう。
では、何故そう感じるのか?
答えは肉の処理方法にあります。
捕獲後速やかに解体して肉の塊にするかで品質は大いに異なります。
猟師により解体の手順や方法は異なりますが、自分が提供する肉は臭みが無いように処理されたモノを使用しています。
更に、捕獲の時期や年齢、オスメスでも肉の差が出ますし、捕獲場所でも味は異なります。
それらを見極めて調理方法を選択すれば美味しくいただけるのです。
猪や鹿等のジビエは美味しいんだ!ということを伝えたいのです。
猪は豚の仲間だけど、味は全く異なるんだ! 畜産のイノブタとも違うんだ!
ということを伝えるには皆さんの口に直接運ぶしかありません。
その為にはお店をつくるのがベストなのです。
そして食べて頂いた方には、牛や魚といった食の選択肢の中に「ジビエ」を加えて貰えれればと思っています。